| このような文の構造について学びます。 | All you have to do is work. He is hard to please. He is nice to work with |
「不定詞」の正式英語名は "infinitive"で、この訳語は動詞(verb),仮定法(Subjunctive Mood),時制 (Tense)などの場合と違い、非常に忠実に訳されています。しかし、皮肉なことに、忠実に訳されているものに限って、無視されてしまっているのです。日本ではなぜ「不定詞」と呼ばれているのかということに疑問を抱く人が非常に少ないし、またフランス語などでは「動詞の原形」を使う場合などは「不定法」と呼んでいることに関して何も感じない人がほとんどです。(但し、ここではどのような意味において「不定」であるのかということに関する説明は控えておきます。)
「不定詞には「原形不定詞」と「to + 不定詞」の二種類に分けて考えることができます 。ところが、日本では「to + 不定詞」のことを「不定詞」と呼んでいる場合が多く、そのため「原形不定詞」という用語が矛盾した用語のように聞こえてしまうのか、これを「動詞の原形」と呼んでいるようです。例えば、正しく用語を使えば["work"は原形不定詞である。」で、何も問題がないのですが、現在の学校文法のように"to work"を「不定詞 」と呼んでしまうと、"work"を「原形不定詞」と呼ぶのが難しくなってしまい、「動詞の原形」などという苦し紛れの用語を作っています。本書では、フランス語の文法のように"work"のような形態を単に「不定詞」と呼び、"to work"のような形態を「to + 不定詞」と呼ぶことにします。従って、本書では「原形不定詞」という言葉は「不定詞」と同じ意味で使うことにします。このことを、次の表にまとめておきます。
| 本書 | 学校文法 | |
|---|---|---|
| work | 不定詞 | 動詞の原形 |
| to work | to+不定詞 | 不定詞 |
ここで注意して欲しいのは「to +不定詞」という表記法です。「to-不定詞」という表記をしていないということに意味があるのです。
| All you have to do is work. |
不定詞が最もよく使われる場合は、次の二つの場合です。
ほとんどの読者は、上を見て混乱してしまうことでしょうが、このことは、人間は異常なものに慣れてしまうと、正常なものを見たときに、それを異常と感じてしまうということを証明しているだけです。
「"to + 動詞の原形"の形態を不定詞である」とか、「動詞の前に "to" を置けば ”〜すること”という名詞である」などという本来は疑問だらけの文法事項を無批判的に受け入れておきながら、"to work"の "work"は名詞であるという主張には猛烈に反対するのです。他の全ての前置詞と同様、"to"につづく "work"を名詞と思うことは、そんなに異常なことなのでしようか? "at go", "in do", "for know"のように、前置詞の後に動詞が続いているということのほうがはるかに不思議なことなのです。また、"to work"は「前 置詞+名詞」という形容詞であるということのほうが当たり前であるにもかかわらず、「"to work"=働くこと」という名詞であることを何の疑問もなく受け入れてしまっているのです。 "to work"が名詞であることに全く疑問を抱かない人が、"work"が名詞であるということに対して疑問を抱いてしまうのです。そして、実は "to work"が名詞であることの方がはるかに不思議なことであることには誰も気付かないのです。その例が、次のような英米で非常によく使われている英文に対する日本の英語研究家の態度です。
日本の英語関係者にとっては下線部分は "work"ではなくて"to work"でなければならないらしいのです。この文は "All you have to do is "で表されている感情レベルに一致す る verbの形態は、動詞の原形(正確には「不定詞」)でなければならないという要請に基づいた結果がたまたま「異常」であったため「仮定法現在」の文であるという解釈をすれば全く問題がないのですが、気楽なわが国の文法学者の面々は「なぜこのような破格的な用法が使われているのか?」という英米人が普段使う英語を「文法的に正しくない」と呼んでしまうという失礼な態度を取り続けているのです。そして、彼等は,誰も使わない "All you have to do is to work."を言い続けているのです。
このように、"work"のような「不定詞」が名詞として使われ る場合を「原形不定詞の名詞的用法」と呼ぶことにします。(理論的には「不定詞の名詞的用法」と呼んでおくほうが上の説明と整合するのですが、ここでは学校文法における「不定詞の名詞的用法」と区別するために、「原形」という学校文法用語を敢えて使っています。)以上のことをまとめておきますと上の「原形不定詞の名詞的用法」の一つである”to + 不定詞の形容詞的用法」について説明します。"to work"などが形容詞として扱われているということを示しておきます 。
| 通常の形容詞 | to + 不定詞 | |
|---|---|---|
| 修飾用法 | a man happy with it | a man to work here |
| S+V+CのC(=主格補語) | He is happy. | He is to work here. |
| S+V+O+CのC(=目的格補語) | I make him happy | I want him to work here. |
| C'(=副詞句) | He came here happy. | He came here to work. |
学校文法では「不定詞の〜用法」などと言っているわりには、上のような例はほとん ど分類の対象外にしてしまって、急に沈黙してしまっているようです。
《目的格補語として使われる to + 不定詞》
上の場合の "want"のように、目的格補語が"to+不定詞”である verbを本書では「使役動詞」と呼ぶことにします。その理由は簡単で、このように使われるverbは使役の意味を表すからです。使役動詞の代表は "cause"ですが、どのように目的語である名詞に〜させるかによって、verbを微妙に変ってきます。次の変形を見てください。
学校文法では、上のverbのどれをも「使役動詞」とは呼んではいません。学校文法における使役動詞の定義は非常に奇妙なもので、目的格補語として動詞の原形(=原形不定詞)を要求するverbを使役動詞と呼んでいるのです。従って、"I let you do it."の "let"は使役動詞と呼んでいるのに対し、この文と同じ意味の "I allow you to do it."の "allow"は使役動詞とは呼ばないのです。つまり、「使役(〜させる)」という言葉の意味で判断しないで、「動詞の原形」という形態が「使役動詞」の定義になっているのだと学校文法は主張しているのです。これは、「受身(〜される)」という意味によって判断しないで、”be + P.P."という形態を「受身」の定義にしてしまい。He is married. などの受身の意味を持たない文まで、受身の文としてしまっている誤りと同じです。"〜される"という意味だからといって使役動詞であると判断する者は英文法が分かっていないとされているのが現状です。
しかし、このような「使役」という言葉が使役という意味を表すとは限らないというようなことはやはり許されないことなのです。学校文法がこのような奇妙なことを言い出した原因は次のような「文法上の注意」を読み間違えたからだと思います。
| 使役動詞 "have","let","make" の目的格補語は原形不定詞になります。 |
言葉の専門家ともあろう者が、上の文を間違って解釈し、「使役動詞とは "have","let","make"のことである。」と勘違いしてしまったのです。「国産乗用車ブルーバード、 カローラにはこの装置が装備されています。」という文を読んで、「国産車とはブルーバードとカローラのことである」と勘違いする初歩的な間違いに全く気付いていないし、恐らく本書を読んでも、その間違いを認めるようなことはないでしょう。
| 学校文法の使役動詞 | 学校文法が認めない使役動詞 |
|---|---|
| I have him look at it. | I get him to do it. |
| It made me cry. | He will force her to read it. |
| You let me introduce myself. | You allow me to introduce myself. |
実際に使役動詞はほとんど無数に存在し、その多くは目的格補語として "to+不定詞 ”という形態をとります。その例外として「原形不定詞」を要求するものもあるということなのです。
学校文法では、いきなり「to + 動詞の原形 = 〜すること」という論理的に非常に無理なことを押しつけていますが、このことは説明されなけばならない事柄なのです。そして、このことは、”work"=「働くということ」という「原形不定詞の名詞的用法」から、つまり "to work"=「これから働こうとしている」という「to + 不定詞の形容詞的 用法」から説明されなければならないのです。
「形容詞」から「名詞」への認識の変化は恐らく次のようにして起こったのだと思われます。そして、ここでも「重ね合わせ・省略の原理」が重要な働きをしています。
つまり 重ね合わせ・省略の結果である "He started to tell the story."と いう文の下線部分 "to tell the story"が元の形容詞から、"started”の目的語として機能する名詞として認識されはじめたとき、「to + 不定詞の名詞的用法」が成立したので す。このように、言語の発展の原動力は言語を表層的に捉える大衆の「錯覚」なのです。数学的な論理は使われていません。もし、この錯覚が許されないとしたならば、英語にしろ、日本語にしろ現在のように高度に発達はしていないはずです。もし、他の動物と人間の区別がまだ明瞭でなかったころの人間の使っていた言語を記述した文法があったとして、当時の規則を忠実に守っていたとするならば、現在の人間の言葉は他の動物の鳴声とはあまり変わっていなかったはずです。言語における新しい認識が定着するための規準は、それが論理的に正しいか、正しくないかということでなく、より複雑な概念をより簡単に表現できるかどうかによるのです。突然変異して生成した性質が存続するかしないかは、遺伝子の読まれ方が正しいか、正しくないかによって決まるのではなく、新しくできた性質がどれだけ環境に適しているかどうかによって決まるのと同じです。言語を分析する場合は、現在の日本の英語関係者のような粗雑な論理よりは、数学者の緻密な論理の方がはるかに適しているのですが、数学者の論理の特徴である「同値性の保存」は結局は同じことを違う言葉で言い換えているだけであり、事物の発展を記述するには適していないのです。初期条件さえ与えられれば、微分方程式で将来の宇宙が記述できるような世界には私たちは存在していないのです。現実の世界は、生成し、発展し、死滅するのです。そして各段階において支配する法則が存在し、その法則すら変化しつづけるのです。言語の発展も各段階によって法則が異なるのです。そして、法則が異なることを発展とか変化と呼ぶのです。「関係代名詞」を代名詞の一種だなどと思っている人達は、言語が発展してきたことを認めていないことになるのはこの理屈です。
この場合の錯覚は、「verbの前に "to"を置けば、それを名詞化できる。」という論理的 間違いですが、この論理的間違いによって受ける不利益よりも、それによって得られる利益の方がはるかに勝っていたために、[to + 原形不定詞 は形容詞である」という束縛を破ってしまったのです。この認識が成立したのち、「to + 不定詞」が名詞として、主語や補語として使われるようになったのです。原形不定詞の名詞的用法(work)とto+不定詞の名詞的用法(to work)という二種類の名詞的用法が存在する理由はこの論理的矛盾が言語の使い手である大衆によって無視されている事実が存在するからです。論理的に間違っているからというだけの理由で、To work here is exceting.などと いう新しい表現方法を放棄することはできなくなったのです。
表「to + 不定詞」の形容詞的用法の「C'(=副詞句」の欄で示した通り、「to + 不定詞」が C'として使われている場合を、学校文法では「不定詞の副詞的用法」と呼んでいます。「形容詞」を「副詞」と呼ぶことに関しては、論理的には何も矛盾していません。「形容詞」と「副詞」という概念は全く別のカテゴリーに属するもので、「この形容詞は副詞である」という言い方ができるのです。学校文法では「形容詞」と「副詞」の関係を「白」と「黒」や「男」と「女」の関係と同じと思い込み、次のような文の下線部分を「形容詞ですか、それとも副詞ですか?」をいう意味のない質問をしてしまうのです。
| 形容詞の種類 | 下線部分が C' |
|---|---|
| 通常の形容詞(a) | He came home hungry. |
| 通常の形容詞(b) | He came home alive |
| 前置詞+名詞 | He came home with his family. |
| 現在分詞 | He came home running. |
| 過去分詞 | He came home disgusted |
| 形容詞節 | He came home as he was before he left. |
| to+不定詞 | He came home to see his children. |
文法用語を使って素人を煙に巻くことばかり考えないで、文法用語間の関係(二律背反、従属、包含等)を明らかにすることくらいは常識なのですが、このようなことの重要性は、学校文法では一向にお構いなしというのが現状です。「to+不定詞の形容詞的」用法は「形容詞が副詞として使われる」例の一部であることが上の表で明らかになっています。英文の見方とはもっと具体的に言えば、上のような C' 部分を見たならば、逆にその部分を、「修飾用法」、「主格補語」、「目的格補語」として使える可能性があるということまで見なければならないということです。
例えば
という言い方が可能であるということが見えてくるような英文の見方をすることが英語による表現力を向上させる効率的な方法なのです。
「to + 不定詞の副詞的用法」とは「to + 不定詞の形容詞的用法」の一部であり、さらに理論的に言えば「原形不定詞の名詞的用法」なのです。| He is hard to please. He is nice to work with |
次のような偶然から、上で説明したような論理的な勘違いが発生した結果、現在の英語における非常に重要な認識が成立しています。
このような現象から、"for you to come"="you will come"という認識が生まれています。この認識とは「文を to + 不定詞に変換する場合、元の文の主語である名詞に "for”を付けて "to + 不定詞"の前に置く」という認識です。ここで注意しておきたいことは、形容詞に主語を付ける非常に簡単に行なえる方法が既に存在しているということです。これは形容詞的用法の「to + 不定詞」を名詞化するには 「to + 不定詞」の名詞形をわざわざ新しく作らなくとも、"to"と取り去って「原形不定 詞の名詞的用法」にする方法が既に存在することと同じです。 主語付き形容詞で説明していますが、「to + 不定詞」は形容詞ですから、"to work"のような形容詞的用法に意味上の主語を次のように付ければよいだけです。
つまり、「原形不定詞の名詞的用法」と「to + 不定詞の名詞的用法」の二種類の名詞的用法が存在するのと同様、不定詞の意味上の主語を表す場合には、"him to work"の ように "for"を付けないものと”for him to work"のように "for"を付けるものの二種類いが存在します。結局、英語には大衆の犯すある論理的誤りによって、同一機能を有する、異なる形態が二種類、あるいはそれ以上存在することがよくあります。そして、"to + 不定詞の名詞的用法」や「 for + 意味上の主語 + to + 不定詞」のようなものを「記号付き形態」、「原形不定詞の名詞的用法」や「意味上の主語の前に "for"を置かない to + 不定詞」を「無記号形態」と呼ぶことにします。その他の例も含めて、次の表にこのことを示しておきます。
| 記号付き形態 | 無記号形態 | |
|---|---|---|
| 不定詞の名詞的用法 | 原形不定詞 (work) | to + 不定詞の名 詞的用法(to work) |
| to 不定詞の意味上の主語 | for him to work | him to work |
| 完了形 | have + p.p. | p.p. |
| 関係節 | 関係代名詞を使う | 関係代名詞を使わない |
この「for + 意味上の主語 + to + 不定詞」は次の表に示すように関係節を含めた、節の変換によく使われます。
| 節 | for 〜 + to + 不定詞 | |
|---|---|---|
| 名詞節 | That he goes there is desirable. | For him to go there is desirable. |
| 形容詞節 | the chair she sits on | the chair for her to sit on |
| 副詞節 | She switched it off so he can concentrate. | She switched off for him to concentrate. |
この "for"は省略されることがあります。例えば、This is the chair for her to sit on. は This is the chair to sit on.のように意味上の主語にこだわらない場合は省 略されます。
このように、「to + 不定詞」には二種類存在し、また、"for 〜"という部分が省略され るということを知らないために、次のような文の下線部分の区別をすることができない人が多いようです。
"He is hard to please."は"
"He is a hard person for you to please."
= "He is a hard person you can please."
であるのに対し
"It is hard to please him."は
For us to please him is hard.(名詞的用法)
= To please him is hard. ("for + 意味上の主語省略)
= It is hard to please him.(仮主語 "it")
という違いがあります。
もう一つ例を挙げていきます。
"He is nice to work here."の場合は、
He is nice.
+ He is to work here.の「重ね合わせ・省略」ですが、
He is nice to work with.は
= He is a nice person for us to work with
= He is a nice person we work with
という違いがあります。